ふわふわ読書

『スローカーブを、もう一球』(←セイゴオ先生評。そう、ペパーミントなんだ)
タイトルが印象的な短編集を、相方本棚より。収録作「江夏の21球」(←色んな事実が発掘される)でデビューし、表題作で第8回日本ノンフィクションを受賞。野球以外のスポーツにまつわる短編もあり、いずれも丹念な取材からそのスポーツの面白さを綴りつつ、競技者の一瞬の心の揺れと結果をつなげて描く。時制を軽々飛び越える文章の上手さが、全編読むと鼻につくような気もすれど、ある一つのジャンルを自分が作るぞ!という著者の気概がぐいぐい頁を繰らせます。
表題作と江夏の話はやぱ、おもしろかった! 次にどんな球を投げるかということは、現在の自分の状態、過去の打者との記憶、ベンチの動きなどなど、たくさんの要素から決定されていく。しかも決定しても、それが思惑通りのところへ投げられるか、そして打者の読みがどうか、ということによって、異なった結果を出す。ドキドキします。『おおきく振りかぶって』で「野球って、ゲームをこんなにさまざまな要素から組み立ててるんだ!」とめちゃくちゃびっくりしたN吉でありますが、先達はここにいてはったのね、と初めて知りました。恥。


まち歩きが観光を変える(←興奮の伝わるご紹介)
初めて「まち歩き」を博覧会に仕立てて、長崎の観光入込客数を355万人(前年比6.7%)に導いたプロデューサーさんの奮闘記。行政がお金を落として、業者に丸投げで、とは異なった、歴史と起伏のある町を歩いてもらう、そして案内人として市民が参加していく様子が臨場感溢れる筆致で描かれます。3年間という期間でプレイベントもあるけれど、なんせ初めての試みで集客もままならないという焦燥の場面ではハラハラし、案内人の市民達の喜びの声が溢れる場面では落涙。
多く語られてはいませんが、当時の市長の下でこの企画に道筋をつけたのが現在の長崎市長。選挙期間中、銃弾に倒れた市長の弔い合戦と出馬した東京在住の女婿を押しのけ、それは違うんじゃないか、と遺志を引き継いで急遽立候補した田上さんが勝利されたのは、おそらくこの博覧会によってつながった人々の力に拠るところが大きいんだろうとこれを読んで合点がいきました。


『せやし、だし巻き、京育ち』
タイトルが秀逸。話題に出たので気になって読んでみた。ふつう。
66年生まれ、室町の呉服問屋でお手伝いさんも含めた13人の大所帯で育ったアッコちゃんの日常。けちんぼで見栄っ張りな京都人を冷笑することはたやすいけど、商売している家の美学とも読める。生活が季節とともにあることや、口うるさいしつけを、懐かしく大切なものとして読みました。
ん〜、でも本のつくりが中途半端なんじゃないかなあ。痛痒い京都人気質の記述は京都人が喜ぶためのもののような気がするし、アッコちゃんが親しんだ京都老舗の紹介は他地域向けの気がするし。というわけで、図書館で借りる程度でいいのでは、と思いました。